一番大事な君の特別な一日だから







秘密基地




「どこまでいくんだ?」
 「もうちょっともうちょっと!あの茂みの向こうだよっ」
 久しぶりの休日に、珍しく朝早く起き出して来たルシアンが、何も言わずにボリスを引っ張り出して早30
分。森の中を鼻歌混じりに歩く少年の後に続きながらボリスがたずねると、にっこりと笑いながら少し先の茂
みを指差して見せた。
 こんなときの彼には何を言っても具体的な答えは返って来ないことを経験上知っている少年は、それ以上問
うのを諦めて片手のバスケットを持ち直した。最初はルシアンがもっていたのだが、勢い良く振り回しそうな
少年に持たせておくと中身が心配だとなかば強引にボリスが持つことになった。そうして初めて中身を見てみ
ると、予想したとおりサンドイッチや飲み物の入った瓶やらが入っていた。
 程なく指していた茂みにつくと、ルシアンは躊躇うことなく草葉を掻き分けて入っていく。鬱蒼とした森の
中でさらに濃い色をした茂みの中を進んでいくこと数分。行き先もわからず歩き続けるというのは酷く時間の
流れが遅くなる感じがした。
 そうして進んだ先の木の葉の間から光がこぼれるのが見えた刹那。視界一杯に光が溢れた。





 「すごいでしょ?」
 滅多に表情が動かないパートナーの顔に驚きの色が浮かんだことに、ルシアンが満足気に笑みを浮かべなが
らゆっくりと進んでいくそこは、ちょっとした広場になっていた。
 周りを濃い緑のカーテンが包みながらそこだけ青い空が覗き、傍らには絶えず新鮮な水が湧き出す小さな泉。
下草は柔らかく花がいたるところに咲き乱れている。
 モンスターの徘徊する森の中にありながら、ここだけは別世界の様に穏やかな空気が流れていた。注意深く
見てみると、森との境界に結界が張られているらしい。
 町や村のほかに、旅人が休息をとるために作られた場所はいくつかあるが、地図にも記されていないここは
いつのまにか忘れ去られてしまった休憩地点なのだろうか。ともかくモンスターに襲われる心配のないことに
幾分緊張を緩めると、ゆっくりとした足取りで日の当る中央に進み出た。
 「ベリー採りに来たときに偶然見つけたんだ。どうしても今日ボリスに見せたくて」
 にこにこと上機嫌にいいながら座り込んだルシアンに促されて、ボリスが隣りに腰を下ろしつつ首を傾げる。
今日に随分こだわりがある様だが、何か特別な日だったろうかと考えていると、
 「誕生日おめでとう!ボリス。ここが僕からの誕生日プレゼント!!」
 ルシアンの一言にああ、そうか。とようやく合点がいった。
 「…ありがとう」
 照れくさいながらも礼をいうとルシアンが驚いたような顔のあと嬉しそうに目を細めた。
 「丁度お昼だし御飯にしよ!…夕方には戻らないと間に合わないし…」
 「?なにかいったか?」
 バスケットの中身を取り出そうとしていたせいか、ルシアンの後半の呟きが聞き取れず聞き返すが、なんで
もないよとはぐらかされてしまった。妙に焦ったような少年の様子が気になりもしたが、深く問いただすこと
でもないかと思い直して、ランチボックスを取り出す。
 ぽんぽんとテンポ良く飛んでくるルシアンの話しに短い相槌を打ちながら昼食をとる。穏やかな雰囲気にこ
こしばらくの嵐のような出来事から隔絶された久しぶりの休息に、常に張り詰めていたようなボリスの気配が
ほんのわずかだけれど緩んだように思えて、ルシアンも知らず笑みを浮かべていた。
 暗くなる前に戻ろうとかたづけながら、今度はジュニアも連れてこようかと提案してみると、ボリスもそう
だなと頷いてくれた。
 そうして泉の広場をあとにしたボリス達は、元来た道を引き返しながらまだルシアンがどことなく浮かれて
いる様子にボリスはまた首をかしげた。
 自分を驚かせたのがそんなに嬉しかったのかと思いつつ、彼自身も久しぶりの満ち足りた休息に穏やかな心
地で少年の隣りに並ぶ。
 やがて夕陽に橙色に染まったナルビクの町並みが見えた頃、おもむろにルシアンがボリスの手を掴んで歩き
出す。
 町につく頃にはすっかり日が沈んでしまうだろうが、そこまで急ぐこともないのではと思いながら、手を引
かれたまま少しだけ早足で町に向かうと、予想通り辺りが夕闇に包まれ始めるころにたどり着いた。
 「ボリスごめん!僕ちょっといってくるっ」
 「ルシアン?」
 慌てた様子でそれだけ言うと返事も待たずに駆け出す少年の後姿を唖然としながら眺めていたが、いつのま
にか手の中に折りたたまれたメモに気付いて開いてみる。



 『バスケットを置いたらブルーホエールにきてね』



 見慣れたルシアンの文字で簡潔に書かれた文に目を通し、困惑したまま指示されたとおりにバスケットを戻
してくると、ブルーホエールに足を向けた。
 夕闇が深まり始めた頃、何時もならにぎやかなブルーホエールがしかしなぜだか今日は明かりもなく静まり
返っている。
 どうしようかと迷いながら店のドアに手を伸ばすと、何故か鍵はかけられていたなかったらしく、すんなり
と店内へと開かれる。躊躇いがちに一歩踏み込んだ途端。
 複数の破裂音と共に店内に明かりが溢れた。
 とっさの事に硬直するボリスにルシアンをはじめとした仲間達が笑顔を向ける。ルシアンが状況をつかめず
に今だ戸惑う彼の手を引いて中央のテーブルに向かうと、テーブルの上には大きなケーキと所狭しと並べられ
た料理。
 「びっくりした?」
 悪戯が成功したような笑みを浮かべたルシアンに向かってこくりと頷いたボリスに、仲間が声をそろえて言
葉を贈る。



 「ハッピーバースデイ!ボリス!!」





ボリ誕記念に贈った話をここでもアップ。ぶっちゃけ最初の段階では話をつける予定はなかったのですが…
もうね…あのヘタレ絵だけでは恥ずかしすぎるっていうか申し訳ないっていうか…orz
あまりの駄絵具合にせめてもう少しマシにしようと急遽作った物だったりします…
作成時間2時間前後というインスタントすぎるものなので、ところどころ荒い部分がありますが、まぁまぁ気
に入っていたりしますw
愛はあるんです!愛だけは!!














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