この季節といえばやっぱりこの花だよねーv







 その花はアーモンドの花にとても良く似ていた。







 Cherry blossom







 一人欠けた分を補うように単独で依頼を受けた見習い騎士二人は、アクシピターの前で別れて任
務地にそれぞれ向かうことにした。
 ボリスが受けた依頼は届け物が2件。どちらも届け先が同じだったことからまとめて引き受けた
のだ。 
 対してパートナーであるルシアンが受けた任務は簡単なアイテムの収集で、アイテムを落とすモ
ンスターのレベルも生息域も冒険初心者がいく地域だったのだが、とにかく数が多いらしい。
 「それじゃいってくるねっ」
 「ああ。…はりきるのはいいが無理するなよ」
 親友の実力に心配はしていないが、それでも突っ走しってしまう少年の護衛として、何より親友
としてボリスは声をかけた。
 「わかってるって!」
 ワープポイントに向かって早くも駆け出すルシアンに声を掛けると、少年は笑顔で軽く手を上げ
ながら目的地に転移した。
 少年を見送った後少し遅れてワープポイントの礎石に乗ると、目的地に向かって青年も転移した。
 すんなり荷物を引き渡し終えてアクシピターに戻ろうとクラドの広場を通りかかる時、いつも広
場で花を売っている盲目の少女を見かけた。籠に飾られている少女の笑顔と同じくらい可愛らしい
花の中に見慣れない薄紅の花を見つけて、何となく興味を惹かれて歩み寄った。
 もうすぐルシアンの誕生日だからと、このあとナルビクに戻ったら少年の誕生日パーティーの計
画を立てるべく、最近行動を共にするようになった6人とブルーホエールで落ち合うことになって
いたのだが、待ち合わせの時間にはまだ余裕がある。誕生日の日に花を渡すのも悪くないだろうと
参考に少女に話を聞こうと思ったのだ。
 「こんにちは」
 「こんにちは、何かお花を探してるんですか?」
 近づいてくる気配に顔を向けた少女にボリスが声をかけると、少女が可愛らしく首をかしげた。
 彼女の傍らに置かれた籠にある花を改めて聞くと、聞いたことのない名前の花に今度は青年が
首を傾げる。
 「アーモンドの花ではないんですか?」
 「いいえ、とても良く似ているんですけど違う種類なんですよ」
 見えなくとも触れた指先から花の形を詳細に思い描くことができる少女は、最初自分もアーモン
ドの花だと思っていたと話した。
 仲の良い老紳士から分けてもらったというその花は、元は大きな木だという。アーモンドと同じ
くらいの時期に花を咲かせるそうで、葉に先駆けて花を付ける姿がとても美しいのだという。
 「散るのが早い花ですけど、まだ咲き始めですから丁度ルシアンさんのお誕生日のときは身頃か
もしれませんよ」
 微笑む少女に、ボリスはしばらく考えた後躊躇いがちに口を開いた。




 「すみません、遅くなりました」
 時間に几帳面な青年が約束の場所に現れたのは待ち合わせの時間から少し遅れた頃だった。
 「はじめたばかりだから問題ないよ。…珍しいとは思ったけど」
 笑いながら隣の席を示した女海賊に促されて席に着いたボリスに、丁度向かい合う形で座ってい
た赤い髪の傭兵が声をかけた。
 「ちょっと話が長くなってしまって…」
 珍しく言葉を濁すボリスに、仕事絡みなら首を突っ込むべきではないとシベリンもあえて深く聞
こうとはせず、すぐに話を元に戻した。
 会場の確保、料理の手配に飾りつけ等基本的なところから始まり細かいところまで打ち合わせる。
 途中ティチエルがお酒を飲みたがるのを宥めたり、面倒くさがるマキシミンを諌めるイスピンの
口論が激しくなったりとちょくちょく話が横道にそれながらも何とか纏まり解散する頃にはいつも
宿舎に戻る時間よりも遅くなってしまった。
 足早に宿舎に帰ると、ドアの隙間から明かりが差し込んでいる。
 「…ルシアン?」
 いつもなら寝ている時間だと不思議に思いながら扉を開くと、こちらに背を向けてベッドに寝転
んでいる少年の後姿が見えた。
 声をかけても返事がないのは、帰りが遅いボリスに腹を立てているからなのだろうかと思いなが
ら近寄ってみると、ボリスを待ちながら本を読んでいたらしい。本が開かれたまま寝息を立ててい
た。
 思わず小さく笑って起こさないように本をそばの机に置くと、そっと毛布をかけて青年も装備を
解きにかかった。






 ルシアンの誕生日当日。シュワルター隊長の厚意で一日休日をもらった二人は、ライディアに向
かっていた。本人には内緒に進めている誕生日パーティーの準備はミラ達に任せ、それまでの間ル
シアンと一緒に行動して会場付近を通りかからないようにするのが今日のボリスの任務だ。
 「ボリスっ僕に見せたいものってなに?」
 ライディアを出て森の中を進む道すがら、ルシアンが前を行くボリスに好奇心に満ちた目を向け
る。
 「少し奥に入ったところにあるから」
 ナルビクからここまで幾度となく投げられる質問に、ボリスも同じ答えを返した。柔らかい下草
を踏みしめながら獣道のような辛うじてできている細い道をたどることしばらく、そろそろルシア
ンの機嫌が下降するころに、目的の場所にたどり着いた。
 「ルシアン、こっちにきてみろ」
 背の低い木を掻き分けて先に入ったボリスの声に促されて足元に向けていた顔を上げたルシアン
は視界を埋め尽くす白い光の光景に声もなく立ち尽くした。
 灰色の枝に零れんばかりの華が咲き乱れている木が数本円を描くように植えられていた。周りの
緑を圧倒するように日の光を反射して光りその周りだけまるで別世界のような光景が広がっている。
 僅かな風に煽られてはらはらと降り注ぐ花びらの雨の中を魅入られたまなざしで近寄っていく。
 「…アーモンド…?」
 風に舞う淡いピンクの花弁を一片捕まえたルシアンの口から不思議そうな声が零れた。
 「いや、良く似ているが違う。…桜、というらしい」
 「サクラ?」
 耳慣れない名前に入り口に佇んだままの親友を振り返る。
 「遠い東の果ての島国の人が春になるとこの華を愛でる習慣があるらしい。アーモンドに似てい
るがアーモンドみたいに種が食べられるわけでもない。あくまで観賞用の木らしい」
 花売りの少女から教えてもらった知識をルシアンにも教えながら、そっと歩み寄って隣に並んで
見あげる。
 少女から教わった木の特徴を頼りに任務の合間に探し続けて、昨日ようやくこの場所を見つける
ことができたのだ。
 何とかルシアンの誕生日に間に合うことができた安堵感と、見事な華の乱舞にボリスも言葉もな
く見あげていた。
 そこだけ時が止まったかのように、鳥のさえずりすら届かない桜の中心で、ボリスはルシアンに
向き直る。
 「…誕生日おめでとう、ルシアン」
 飽くことなく華を見つめていた親友が、青年の言葉に驚いたように顔を向け、咲き誇る華よりも
鮮やかな笑顔を浮かべた。







 「すごく綺麗だったねーっボリスありがとうっ」
 しばらく華を眺めた後、名残惜しいもののボリスに促されて街に戻る間も、ルシアンの高揚した
気分は中々醒めることはなく、足取りも軽やかだ。そのまま夕暮れに染まるナルビクの白い石畳を
宿舎に向かおうとしていたのだが。
 「ルシアン、そっちじゃない」
 「え?なにが?」
 上機嫌な少年を呼びとめ、ボリスはそのまま宿舎とは別の方向に歩き出した。訳がわからないま
ま、ルシアンも方向転換して青年の後を追う。
 「ブルーホエール…?」
 思わず店の前で立ち止まって看板を見上げたルシアンに構わず、ボリスはさっさと店の中に入っ
てしまった。
 「あ、ボリス!まってよっ」
 開店準備中なのかやけに静かな店に戸惑っていた少年が、慌てて親友を追いかけて扉を押し開け
ると、にぎやかな破裂音に襲われた。
 「み、みんな…?」
 「主役はこっちにきてくださ〜い」
 驚き固まった一瞬後、それがクラッカーの音だと理解が追いついた頃、ティチエルが嬉しそうな
顔でルシアンの手を引いてホールの中央に置かれたケーキの前に誘導する。
 その頃にはルシアンもクラッカーの意味もわかって嬉しそうに瞳を輝かせていた。
 「さ、主役も揃ったことだし、そろそろ始めようか!」
 ミラの言葉を合図に、全員が声をそろえて、今日の主役に祝福を。
 『Happy Birthday!ルシアン!!』







 ルシ誕企画サイト様に投稿させていただいたお話です。企画サイト様が公開終了されたので、改
めてこちらでアップしました。ボリ誕以外でのハピバ投稿なんて初めてなのでどうなることかと思
いましたが…無事に書き上げることができて一安心でした。
 ボリ誕のときもなんですがうっかりカプ色の強い話になりそうで何度必死に修正したことか…w
 前回のボリ誕話とネタが被ってるのは気にしないでっわかってるっわかってるんだよ…orz
 おまけで通常(ルシボリ版)な続きっぽいのを書いてみたのですが、珍しくエロはなしです。














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