花霞ってタイトルにしようとしたけど夜じゃなぁ…







君が生まれてきてくれた、その日をみんなで祝った夜。
ボリスはルシアンにせがまれてもう一度あの桜舞う場所へと向かった。
美しく鮮やかに、花が散るその姿が幻想的で、同時にどこか切なく感じるのは、今は月の淡い光で
浮かび上がる故なのか。
昼とはまた一味違う空気を纏った桜達を見ながら、ルシアンはぼんやりと思った。


 夜の桜は、どことなくボリスのようだ、と。







ハルヨイツキヨ







 今日はきれいな月夜でランプの明かりがなくともよさそうなくらいだった。一度きてしまえば道
のりも短く感じられるものだ。けれど目印になるものがなく、ちゃんと見つけられるかと内心少し
不安に思っていたボリスだったが、黒々とした森の木々の合間からあの桜の淡い花が白く浮き上が
って見えていたので、むしろ夜のほうが見つけるのは簡単だった。
 茂みを掻き分けて中に入れば、月の光を全身に受けて華自体がうっすら光って見えるような錯覚
を覚えた。
 ふたり言葉もなく立ち尽くして夜桜を見上げていたが、ふとボリスが手にしていたカンテラの明
かりを消した。
 明るい月夜で目的地に着いたのだから、あえてランプの光で足元を照らす必要もなかったという
のもあるが、何よりこの幻想的な光景に人工的なランプの明かりは少しばかり無粋な気がしたから
というのが大きな要因だった。
 実際ランプの明かりがなくなったことで、自然とあたりに闇が迫ったが、それを押しのけるよう
に花びら一つまでも月光を反射するようにして桜の白さが際立った。その光景に魅入られたように
隣に並んでいたルシアンがそっと足音を立てないように中央に進み出る。数歩遅れてボリスも歩み
を進めるが、中央に来ても足をとめず、さらに奥の一番大きな桜の木の根元に立った。
 咲き乱れる桜達からほんの少しだが距離をおいたその木は、ほかの木に比べて随分年老いた老木
のような風情を漂わせていた。けれど桜の中で際立って艶やかに多くの華を咲かせていて、その木
だけでも十分に絵になるとボリスは見上げながら手を木の幹に触れさせた。
 桜の雨のなかそうして見上げていたボリスを包み込むように、ほのかに空気が流れて今まで以上
に花びらが降り注ぐ、ボリスはその花弁を振り払うでもなくぼうっと見上げていたのだが、不意に
腕を強く引っ張られて後ろに大きく体が傾いた。
 「…っ」
 「ボリス…っ」
 とっさのことに声も出ず、目を見開いたまま何とか倒れるのをこらえると、腕をつかんだ手の持
ち主を振り返る。
 そこにはどこか焦ったような切羽詰った顔をしたルシアンがいた。
 「…ルシアン…?」
 どうした、と言葉を続けようとしたボリスだったが、いきなり強く抱きしめられて思わず声がだ
せなくなった。
 突拍子もない行動をとるのはこの少年の常だが、それにしてもなんだか様子がおかしい。内心首
をかしげながらも、安心させるようにそっと肩に手を滑らせると、ルシアンの腕の力が増していっ
た。
 「ルシアン…苦しいんだが…」
 実際にはまだ我慢できなくもないが、軽く息が詰まりそうになってそっと声を掛けてみた。けれ
どルシアンは離れるのを嫌がるようにボリスの肩に顔を押し付けるようにしてさらに隙間を埋めよ
うとする。
 さっきまであんなに上機嫌だったのに、何がそんなに彼を不安にさせたのか見当も付かないボリ
スは、結局ルシアンの好きにさせることにした。
 気の済むまで抱きついて良いと言葉の代わりに、やさしく頭を撫でてやると、ようやくルシアン
が安堵の息をついたのがわかった。
 そのまましばらく親友の体温に包まれながら桜を眺めていると、少しだけ腕の力を緩めたルシア
ンが腕は離さないまま呼気にまぎれてしまいそうな程頼りない声音で親友の名を呼んだ。
 これほど密着していなければ聞き逃してしまいそうな程の小声に、青年は答えるように親友の顔
を覗き込む。
 潜めた声に反応してくれた青年にルシアンはようやく安堵の笑みを浮かべるとともに、そのまま
触れるだけのキスをした。
 ボリスが桜の木に触れたあの瞬間視界を覆う桜の花弁に、一瞬だけ青年の姿が見えなくなった。
桜の花びらに包まれたボリスはどこか浮世離れして見えて、あのまま花びらとともにどこかに消え
てしまいそうな錯覚を覚えたのだ。
 今思えばそんなことなどありえないのだろうが、あの時はとにかく必死で反射的に腕を伸ばして
ボリスを引きとめようと腕をつかんだ。
 ともに行動するようになってもはや短いとはいえない時間を共有しているにもかかわらず、こう
して時々漠然とした不安に駆られるのは、やはりまだ心のどこかでボリスがいなくなるのではない
かという思いが根付いてしまっているのだろう。実際兄を探すことに心を砕いてルシアンから離れ
て行動することも未だにある。前に比べれば少しは減っているようだが、それでも兄を探すのをや
めろといえない彼にしたら、やはり不安になるのは当然なのかもしれなかった。
 「ん…んん…っ…ふ…」
 ぼんやりと考えに浸りながらも、触れるだけのキスを徐々に深いものにしていくと、初めは驚い
ていたボリスも控えめながら応えてきた。
 やがてルシアンの柔らかい髪を撫でていた手がすがるように少年の服をつかむころ、ようやく開
放すれば、ボリスは肩で大きく息をついた。
 「ン…ッ…いき、なり…はふ…どうし…」
 「…ボリスがあんまりきれいだったから…」
 上手く言葉をつなげられない青年の質問に先回りするようにルシアンがやんわり微笑んだ。完全
に本当のことではないが、嘘でもない。まさかボリスがいなくなるような気がしたなんていえない
とルシアンははぐらかすように答えてもう一度口付けた。
 欲と理性がない交ぜになっているボリスの瞳が閉ざされるのを確認すると、ルシアンは目を開け
たまま青年の服の内側に手を滑り込ませた。
 「んぅっ…ンッ…ふぁ…!」
 肌を撫で上げる手のひらの感触に、ひくりと体を跳ねさせたボリスが思わず目を開く。ルシアン
は見つめたまま目を細めてさらに上へと手を滑らせると、硬くなり始めた胸の飾りを軽く指で押し
込んだ。
 「っぁ…!…ルシ…っ…だめ、だ…っ」
 「どうして?…気持ち良くない?」
 「そうじゃな…ぁンッ…外で…冷える…んっ」
 どうしても甘く融けてしまう自分の声を恨めしく思いながら、何とか思いとどまってもらおうと
力の抜けきった腕で突っぱねると、しぶしぶながらようやくルシアンの動きが止まった。
 「…でもここまでしておいて宿まで持つ?」
 仕掛けておいてしれっとそんなことを言い出す少年に思わずため息をつきたくなったが、彼の指
摘することも事実だ。
 「…この奥に、休憩用の小屋があるから…」
 老紳士が桜を探すというボリスに目印として教えてくれた小さな山小屋が、桜の木々の少し奥に
建っている。
 桜を見つけたときに小屋も一通り見てきていたから、せめてそちらに移りたいと主張した。
 いくら春先といっても夜はまだまだ肌寒い。一時の熱に浮かされて翌日二人仲良く風邪というの
はあまりにも情けない気がした。
 「わかった!続きはそこでだね!」
 ボリスの指差した方向にむかって、ルシアンは親友の手を掴むと元気良く歩き出す。火照った顔
を隠すようにうつむいたボリスは、自分の手を引く少年の手を少しだけ握り返した。












 ルシ誕小説にちょっとルシボリ色を追加したくて付け加えてみましたw
 タイトルはるよい〜は「春に酔う月夜」と「春の宵の月夜」、「春(桜)に酔う月夜」といくつ
かの意味を持たせたくてカタカナに。
 内容がタイトルに沿っているかは気にしちゃいけない(ぁ
 最初のルシ誕話かいてるときもだったのですが、どうにもおいらには健全な話を書くことが苦手
なようで…書きながら何度も「これは健全!健全なのよっ」って言い聞かせてた…よ…orz
 気を抜くとついついカプ系に話の方向性が向いてしまうのはもはや習性なのか…orz
 綺麗な区切りだったのでここまでにしたんだけど…需要があるなら…もやもやっと書くかもしれ
ない…多分(頼りないな
 とりあえず…続き、どうしよう?(ぁ














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