与えられる熱の激しさにただ戸惑うことしかできない







The moon of restraint and light of a thaw




 触れるだけのやさしいキスを幾度か繰り返した後、ルシアンの唇がボリスの下唇をやさしく食むのにつら
れるようにうっすらと開かれる。すかさずルシアンが舌を差し入れて柔らかな口内に侵入を果たすと、先ほ
どの激しさと打って変わって丁寧に歯列をなぞっていった。
 「…ん…ぅ…」
 反射的に体をこわばらせたボリスだが今度は抗うことはなく、しかしどうしていいのかわからないために
困惑し、ひたすらルシアンの舌の動きに翻弄されている。
 時折聞こえてくるかすかな水音と思わず漏れた鼻にかかったような甘さを含んだ呻きに、ボリスの頬が再
び高潮した。
 薄く眼を開いてボリスが懸命に自身の口付けに答える姿に、ルシアンは気をよくして片手でボリスの服を
肌蹴ていった。裾から忍ばせた手のひらをわき腹から上に向かって滑らせると、ようやく気づいたのか、驚
いたボリスが眼を見開いた。
 「ぁっ?…なに…っ」
 「大丈夫…僕にまかせてよ…」
 ただ手を肌に滑らせただけで震えが走る彼の感度のよさに、ルシアンは楽しそうに微笑みながら、耳元に
囁き掛け、その息にすら反応してボリスはびくりと肩を跳ね上げた。
 体を硬くして困惑を露にする彼をみて、この肌に触れるのは自分が初めてなのだとすぐに気づいたルシア
ンは、自然と口元に笑みが浮かんだ。
 人目を避けながらただひとつの目的のために旅をしていたボリスは、こういった行為の知識は驚くほど少
ない。元に戻るための知識を詰め込むのに必死な彼にとって、こういった類の経験を持つ余裕はなかった為
でもあるが、普段教えられるばかりのルシアンにとってボリスが困惑し、自分が主導権をもてる稀有な場面
に優越感と満足感が満たされるのを感じる。
 かといってルシアン自身、経験を積んでいるかといえば、実はボリス同様今回が初めてだ。ただ町で何度
か話しに聞いたことがあったし、ボリスへの思いに気づいてからすこしして母にこっそりそれとなく聞いて
いた成果もあった。名前は伏せていたものの、さすがに母親はすぐに気づいたが驚いただけで後はむしろ応
援してくれていたのは、ルシアンすら知らない事実である。
 「…ぅぁ…んっ…」
 ろくに力も入らないボリスから服を取り去るのは簡単なことだった。ルシアンが手早く服を剥いでしまう
とボリスの羞恥に染まる頬から首筋を舌で辿る。名を呼びながら伏せてしまった震える耳にねっとりと舌を
這わせると、背筋をぞくぞくとした何かが走り抜けて、鼻から抜けるような甘い吐息に混じって普段からは
考えもつかないような高い声が漏れた。あわてて唇をかみ締めたボリスからさらに声を引き出そうとするか
のように、ルシアンは胸の突起に吸い付いた。
 「ひぁっ…ぁあ…ふ…ぐっ」
 強い快感にたまらず声がこぼれるのを、力の入らない手を苦労して口元に持ってくるとこれ以上漏らすま
いと指を噛んだ。
 「そんなに噛んだら血が出ちゃうよ…」
 「ひゃ…っ…ぁあっ…るしあ…んぅっ」
 ボリスの指をどけると舌を絡めながら、硬く立ち上がりだした胸の突起を指で捏ね回した。
 びくりとボリスの体が跳ね上がり、ボリスの全身が羞恥にほのかに赤く染まる。ルシアンが片手をそろり
と脇腹を撫でながら下肢へと滑らせていき、足の付け根からそろりと撫で上げた。
 「んんんっ…ふぁ…っ」
 口付けから開放されたボリスは、体を苛む熱に溢れる声をとめることができない。まったく未知の感覚に
戸惑う彼に追い討ちを掛けるように、ルシアンが下肢に伸ばしていた手をボリス自身に伸ばした。
 「や?!るしっ…んああぁっ」
 強い刺激に快感に染まった体が大きく跳ねる。シーツを掴んでいた手を白くなる程きつく握り締めて快楽
に上がる熱を耐えようとしていたが、強い波に徐々に思考が浸食されていった。
 戸惑いが消えていく彼の姿にルシアンの指の動きも早まっていく。ボリスが追い立てられて切羽詰った声
に変化していく様子にルシアンの息も気分も高揚していく。
 「ボリス…気持ちいい?」
 「あっ…ルシ…っ…んっ…ひぁああっ」
 ルシアンが囁きながらボリス自身を強く扱きあげると、一際高い嬌声をあげてボリスが欲を放った。
 絶頂の余韻に浸るボリスの理性が溶けた瞳の色に、ルシアンは嬉しそうな笑みを浮かべると、彼の欲を受
け止めた指を秘所にゆっくり差し入れた。
 「ぅぁ…な、に…?」
 異物感に思わず眉を寄せながらルシアンを見上げると、彼は大丈夫だからとボリスの額に口付けてさらに
指を奥へと進ませる。
 「あっ?!…はぅ…んっ…」
 完全に力の抜けてしまった今のボリスに抗う術はなく、異物感に耐えるように瞳を閉じていたが、ルシア
ンの指がある一点を掠めたときに強い快感に襲われた。
 「…ここが良いんだね」
 見つけた、と小さくつぶやいたルシアンがボリスが大きく反応を示したところを何度も擦ると、彼の体が
痙攣するように強く応える。すがるようにルシアンの腕にボリスの尻尾が絡みついた。耐えるような声も甘
さを含んでいくのにあわせて、少しづつ抜き差しをしながら指の本数を増やしていくと、ルシアンの指を拒
むようだった内壁がさらに奥へと誘い込むような動きへと代わっていった。
 「そろそろいいかな…」
 そんなボリスのあられもない姿と声に煽られ続けたルシアンも、そろそろ限界がきたようで、ボリスの蕾
からゆっくりと指を引き抜いた。その指を追う様な締め付けに十分に解れたとみて、嬉しそうに笑みをこぼ
しながら手早く自身の服を脱ぎ去ると、ボリスに覆いかぶさった。
 「…ルシアン…?」
 指の抜かれる感触に大きく肩を震わせながら、名残惜しいような気分で覆いかぶさってきたルシアンを見
上げると、彼の欲に濡れた瞳に目を奪われた。
 「力…抜いてね…」
 興奮に少し掠れたルシアンの声を聞いただけで、ぞくぞくと背筋を快感が這い上がっていく。朧気に行為
の先のことは見当がついていたが、快楽に溶けた思考がそこまで追いつくことはなく、ボリスはただ素直に
うなづいてわずかに残っていた力を抜くように浅く息を吐き出した。
 ボリスの脚を抱えゆっくりと中に押し入ると、指とは比べ物にならない異物感と圧迫感に彼の表情が苦し
そうに歪んでいく。
 拒絶するような内壁の締め付けに、ルシアンも耐えるように眉を寄せながらもさらに押し広げるようにし
て進入していく。
 「んんっ…んぐ…ぅ…ひっ」
 息をつめて体を硬直させているボリスに、深く口付けて舌を絡める。その刺激に強張りが緩んだ隙にルシ
アンは一気に奥まで自身を埋め込んだ。
 圧迫感にボリスが押し殺した声を漏らし、きつく閉じた瞳の端に涙がにじんだ。
 じっと痛みと圧迫感に耐えるボリスに、ルシアンが口付けながらボリスのものに指を絡める。
 「ん…ぅ…は…っ」
 ボリスも痛みを散らすようにおずおずと自ら舌を絡めていく。そうして徐々に力を抜けていくのを確認す
ると、ルシアンはゆっくりと動き始めた。
 途端にぶり返す痛みにキスを続けることもできずにまた息をつめるボリスに、ルシアンは先ほど見つけた
感じる箇所を重点的に突き上げると、ボリスの体が大きく跳ねた。
 「くっ…ぅん…ふ…ぁ…」
 少しずつボリスの声に艶が混じり始め、辛そうだった表情にも快楽の甘さがにじみ始める。それを見てル
シアンが抜き差しを早めていくと、苦痛交じりの悲鳴が欲に溶けた嬌声に摩り替わっていった。
 「ボリスかわいい…っ…もっと声きかせて…」
 「るしあんっ…ああっ…ぅ…はんっ…あふ…っ」
 強い快楽の波に翻弄されて、熱に浮かされた嬌声を上げる。欲に溺れて理性が溶けきったボリスの乱れる
様はルシアンの愉悦にも拍車をかけていった。
 「あぁ…あ、あ…るしっ…やっも、う…っ」
 「ボリ、ス…っ」
 果てなく上がる熱に押し上げられるようにして、ルシアンがボリスの最奥を突き上げた瞬間、ボリスが高
く声を上げて強く締め付け、二人同時に熱を放った。




 「ん…」
 柔らかい光が瞼の裏に当たる心地よさにボリスがうっすらと目を開くと、朝日に照らされた見慣れた室内
が視界に広がった。朝日の差し込む位置からおおよその時間を計るといつもよりずっと遅い時間に目が覚め
たようだ。そんなことを考えながらもまだ覚醒しきっていない曖昧な意識のままで、ふと妙に体が重いこと
に気がついた。激しい稽古の後のような心地よい疲労感と倦怠感に、不思議に思いながらベッドから起き上
がろうとして、下半身に走った鈍痛にたまらず寝台に倒れこんだ。
 「…っ」
 刹那昨夜の出来事が脳裏をフラッシュバックする。
 疲労感と腰の痛みに納得はできたが同時にかっと全身が赤く染まった。慌ててシーツを体に巻きつけるも
のの、そのとき目に入った肌の赤い印に羞恥のあまり身の置き所がなくなる心地でさらに恥ずかしさに打ち
のめされる。シーツに埋まりながら、この印の製造者を手をさまよわせて探ってみたが(顔を上げるにはま
だもう少し時間が欲しかった)ほのかな温もりを残しているだけで、ボリスが起きる少し前に自室に戻った
らしい。そのことに少し寂しさを感じながらも、今の自分の状態を見られる心配がなくて安堵もして、よう
やくそろりとベッドから起き上がった。
 だるさは残っているが腰の痛みを我慢すれば動けないわけではないので、しっかりと巻きつけたシーツの
端を握りながら床に散らばっている服を片付け、昨夜の痕跡が残っている敷き布を苦労して引き剥がした。
 ボリスが自室にあてがわれている部屋には浴室もあるので、子供の姿に戻っているボリスはできる限り急
いでシーツを洗ってしまうと、今度はずるずるシーツを引きずりながら、脱衣所に向かった。できればルシ
アンか使用人が来るまでに風呂まで済ませておきたい。ボリスが所有の印に意識しないようにして巻きつけ
ていたシーツから手を離した時、ばたばたとこちらに向かってくる足音と気配に思わず浴室に逃げ込もうと
したがやはり体が重くて動きが鈍る。慌ててシーツをまた巻きつけたのとルシアンが脱衣所に飛び込んでき
たのはほぼ同時だった。
 「ボリス?!」
 ばんっと扉が壊れそうなほど勢いよく飛び込んできたルシアンの、その唯ならない雰囲気に何かあったの
かと眉を寄せるが、ボリスをみつけたルシアンが安堵のため息をついてその場に膝を突いた。
 「…ルシアン?」
 訳がわからないままルシアンのそばに歩み寄ると、そのまま抱きしめられた。
 思わず固まるボリスの肩に額を押し付けるようにして吐息よりも小さく良かった、とつぶやくルシアンに
ようやく彼の慌てた理由に気がついた。             
 「着替えとりに戻ったらボリスいないし服とかもなくなってたし、ベッドも綺麗になってたから、もしか
して昨日のことは夢でほんとはボリスはもう出て行ったんじゃないかって…」
 きつく抱きしめながら一気にしゃべりだしたものの、段々勢いが衰え最後は小さな呟きになる。
 抱きしめられる力の強さに息苦しさを感じながらも、掛ける言葉が見つからないボリスはただ黙って安心
させるように何度も優しく頭を撫でた。
 そうしてしばらく抱きしめられるままだったボリスが、ふと気になっていたことをルシアンに問いかけた。
 「ルシアン…今日は誰もこの部屋には来てないのか?」
 ボリスが目が覚めた時間は常なら朝食を知らせに使用人がきているはずなのだ。ボリスが多少無理してま
で服を片付けていたのもそこに理由がある。
 「僕が部屋に戻るときに廊下で会ったから、後にしてくれるように頼んだよ。ボリスよく寝てたし」
 「…そうか」
 とりあえず最悪の事態は免れたことにほっと胸をなでおろす。
 「ボリスは今からお風呂?」
 ようやくボリスを離したルシアンの問いにこくりと小さく頷く。改めて日の光の中でみる小さな子供の体
にはシーツを巻きつけているが覗く素肌に昨夜の痕が見て取れた。白い肌に鬱血の痕がくっきりと残り、ど
こか気だるい雰囲気を纏う姿は幼さと妖艶さが入り混じって何ともいえない色香を漂わせていて、ルシアン
は目が離せなくなる。そのあまりにも熱心な目線に晒されたボリスが居心地が悪そうに目をさ迷わせてシー
ツを掻き合わせた。
 「ルシアン、すまないが向こうで待っててくれないか?」
 ほのかに頬を染めながら告げるボリスに、素直にうなづくと思われたルシアンが何故か不思議そうに首を
かしげた。
 「一緒に入っちゃダメなの?一人じゃ大変だと思うし…」
 今度首をかしげるのはボリスの番だった。確かにだるさはあるものの、手助けが必要なほどではないのだ。
するとルシアンがボリスを抱き寄せてシーツの隙間から手を滑り込ませると、ボリスの双丘を撫で上げた。
 「なっルシっ…」
 ボリスが驚きの声を上げて硬直する。ゆるりと撫で上げる彼の手を振りほどこうにもボリスの両手はシー
ツを握り締めていて塞がれている。
 「だって、ボリスの中に僕のがまだ残ってるでしょ?そのままにしちゃったらお腹壊すよ?」
 撫でる手を止めずに告げて耳の先端を甘く噛むと、それだけでボリスの肩が跳ね上がった。
 「だから、ね?手伝ってあげる…」
 言うが早いかボリスの抵抗をあっさりと封じたまま器用に自分の服とボリスが巻きつけていたシーツを剥
ぎ取ると、浴室に連れ込み、入るだけにしては妙に長い時間二人とも風呂場から出てくることはなく。
 結局、ボリスはその日一日部屋から出ることはできなかった。














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